(*9/14追記:本記事を読む時は合わせてコメント欄を読んでいただくことを強く推奨します。)

ども宇佐美です。
仕事の合間に書いているので短めの記事です。

コロラド先生なる人が<北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか>という記事を書いていて、これがデマだ、ということを指摘したらいわゆる反原発の人に噛み付かれて仕方ないので簡単に反証しておく。

コロラド先生なる人は簡単に言えば「泊原発が動いていたら停電はなかった、ということはありえない」と言っているのだから、これを反証するのは簡単である。泊原発が稼働していて、苫東厚真火力群が脱落しても全道停電しない発電所の組み合わせパターンを示せばいい。なお泊原発は短時間であれば所内単独運転できるので周波数が乱れただけで即座に落ちるということはないことをあらかじめ指摘しておく。

スクリーンショット 2018-09-12 19.19.40



反証にあたっては今年の電力需給の正確なデータは公開されていないので、2017年の9/6のデータ(上表)を参照する。2018/9/6の停電が起きた時の電力需要は286.0万kwhだったようだが、これは2017/9/6の2:00の発電量とほぼ同じだ(*揚水向けに10.3万kw回していることに注意)。この時火力発電は256.4万kw出力している。同日の火力発電所の組み合わせは昨年も今年も、

・石炭(200万kW):厚真165万kW、奈井江35万kW
・重油(140万kW):知内70万kW、伊達70万kW

であったと推測されるので、ここでは仮に今年も火力発電が総計256.4万kW出力していたとする。この時ベース電力の石炭は定格出力200万kWで動いていたと想定されるので、ミドル火力の知内と伊達が残りの56.4万kwを出力していたと推定される。したがって電源脱落時の上げ調整力は出力超過運転分含めば最大で(140-56.4)×1.05で87.78万kw程度はあったと推定される。

つまり、電源脱落がこの規模であれば、一部の負荷を切り離すことで周波数を維持し、一時停電で復旧できたということだ。したがって例えば以下のような組み合わせならば、脱落は70万kW程度ですみ、全道停電は起きなかったと考えられる。(*以下ミスと文章の分かりにくさがあったので修正)

・原子力(90万kW) :泊   90万kW
・石炭(105万kW):厚真70万kW、<追記>奈井江35万kW(*文末に書いていたものを加えた。なお5万kW分調整力は減る。)
・重油(140万kW):知内70万kW、伊達70万kW

「この組み合わせが不自然で経済性を考えれば厚真は130万kWのはずだ」という人もいるかもしれないが、そもそもそのようなことは断定しようもないので、反証としてはこれで十分であろう。

また上の表を見ていただければ分かるが、北海道は昼に太陽光発電との関係で、昨年度ベースで80.1万kW、おそらく今年であれば90~100万kWの出力調整が火力発電系統に求められるため、むしろ調整力を確保するために、厚真を130万kW動かすよりも上記のような組み合わせの方が自然だろう。

30分で書いた記事なので過不足あるかもしれないが、おそらくこれで<北海道胆振東部地震「泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」>という主張の論拠に対する反証にはなっているだろう。過不足あれば指摘を願う。特に反原発派からの指摘を期待している。

とはいえ雑に書いた記事なので、我ながら不十分に感じるところもあり、後日もう少し説明を丁寧にし、詳細を検討した論考をまとめたい。

ではでは今回はこの辺で。

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追記;
この記事を書いた動機についてだが、私は「泊原発を動かせ」という気はない。それは最終的には道民が決めることだ。ただこの機に乗じてデマを広げようとする人が許しがたいだけだ。

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9/23追記(所内単独運転に対するavlieopis氏のコメントまとめ):

さて、今更感はありますが、貴記事とそのコメント欄及び貴記事に対する牧田氏の反論記事
https://hbol.jp/175165/2)を拝見しておりますと、「所内単独運転」について、皆様、正しい認識をされていないように感じましたので、僭越ながらこちらにコメントさせて頂きたく存じます。
なお、何分古い知識ですので、今の原子力発電所の運用とは若干異なる可能性があることにつきましてはご容赦願います。

原子力発電所の設備につきましては、
①非安全系(蒸気タービンや交流発電機等、主に発電事業に関係する設備)と
②安全系(原子炉の停止機能や非常時等における冷却機能に関係する設備)
の大きく二つに分けることが、設計の基本的な考えです。

そして、②安全系は①非安全系から、使用する電源やケーブル、配管、設置位置等を独立させることで、①非安全系での故障を②安全系に波及させないような設計にしています。したがって、電源系につきましても、①非安全系と②安全系とでは独立した発電所内母線から給電するようになっています。当然、発電所内母線につきましても、①非安全系と②安全系とではそれぞれ独立した外部電源(外部送電線)と接続されています。

通常運転時、原子力発電所内の電源構成は以下のようになっているはずです。
・①非安全系の機器には、自前の交流発電機で発電した電気を供給し機器を動作させる
・上記の残った分を①’非安全系の送電線に供給(これが原子力発電所から外部に送られる電気になります)
・②安全系の機器には、②’安全系の送電線から電気を供給し機器を動作させる

ここで、外部電源(送電線)が失われるパターンとしては
パターン1:①’非安全系の外部電源(送電線)のみが失われる
パターン2:②’安全系の外部電源(送電線)のみが失われる
パターン3:①’非安全系と②’安全系の両方の外部電源(送電線)が失われる

の3つが考えられます。

パターン1の場合、原子炉の出力を低下させるとともに、タービンを回す蒸気を「主蒸気ダンプ」によって直接復水器に導くことで、プラントトリップ(原子炉の自動停止)を回避し、外部電源(送電線)の復旧までの時間をしのぐことができます。
これを所謂「所内単独運転」といい、実際、過去にいくつかのプラントで発生しています。
http://www.athome.tsuruga.fukui.jp/nuclear/information/athome/157/t_06.html

なお、上記リンク先に記載の通り、プラントによっては復水器へ逃がせる蒸気量が少なく設計されているため、蒸気発生器の水位が変動し、原子炉が自動停止することがあります。
泊3号機は「所内単独運転」に成功した関西電力 大飯3・4号機と同時期に、同じ三菱重工業によって設計・建設されたプラントですので、原子炉の自動停止は回避可能な設計と推察して良いと考えます。

また、コメント欄で「所内単独運転」の継続可能時間について触れられておりましたが、平成18年には日本原子力発電の敦賀2号機において、「所内単独運転」を約1時間20分(系統並列後の出力上昇開始までにも時間がかかっていますので、実質的には「所内単独運転」に近い低負荷での運転を約4時間)行った実績がありますので、それなりに長い時間継続可能であると付け加えておきます。
http://www.japc.co.jp/news/press/2005/pdf/180212.pdf

次にパターン2の場合ですが、②”非常用系の外部電源(送電線)が失われても、①’常用系の電源が健全なため、プラントトリップ(原子炉の自動停止)には至りません。
とはいえ、②”非常用系の外部電源(送電線)が無く、トラブルに対して脆弱な状況となっておりますので、緊急的に自前の交流発電機、あるいは、非常用のディーゼル発電機から②安全系の機器に給電をし、②安全系の電源を確保した上で、外部電源(送電線)の復旧までの時間をしのぎます(原子炉の安全上重要な機器ですので、②安全系の機器の電源は複数個所から給電できるようになっています)。

最後に、パターン3の場合は問答無用でプラントはトリップしますが、設計上はディーゼル発電機から②安全系の機器に給電し、プラントを安全な状態まで停止させます(この際にディーゼル発電機が何らかの原因で動かなければ、福島第一原子力発電所と同じ全交流電源喪失となります)。

送電系統の運用や北海道の電力系統の状態につきましては門外漢なため、「泊原発が動いていたら停電はなかった」かどうかは分かりかねます。
ただ、北海道胆振東部地震が発生した際に、泊発電所に接続している外部電源が健全、あるいはパターン2の状態ならば、泊3号機からの電力供給が可能ですが、パターン1と3の状態ですと電力供給は不可能だった、ということになると考えます。