ども宇佐美です。

今回はパチンコの話ですが、テーマは「パチンコメーカーと警察の癒着」についてです。少し話が複雑なので、まずはパチンコ不正改造問題の事態収拾をめぐるパチンコ業界と警察の利害調整の現状について簡単に説明することから始めたいと思います。


1.「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」という摩訶不思議な名称の由来


去る6月22日にパチンコメーカーの業界団体である日工組からいわゆる「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」の第3次リストが発表され、第1次、第2次のものと合わせて72万台のパチンコ台が全国のパチンコホールから撤去されることが決まりました。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takashikiso/20160708-00059739/ 

まずここで気になるのは「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」という摩訶不思議な名称です。
「そもそも検定とは何か?」
「検定時と”いつ”で性能が異なるのか?」
「そもそもなぜ検定時と性能が異なる”可能性がある”とパチンコメーカーが言い切れるのか?」
「なぜ検定時と性能が異なる”可能性がある”だけで撤去しなければならないのか?」
といった疑問が単純に浮かびます。

この点先日木曽崇さんが書かれた記事でも詳細が述べられていますがこの「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」という表現はごまかし以外の何ものでもありませんで、本来は「不正改造機」「違法改造機」とでも表記すべきものです。

現在パチンコホールに設置されているパチンコ台は一般に、
①パチンコメーカーが型式レベルで「検定」という警察が行う試験(大部分「保安通信協会」という団体に委託)を受けて、その適法性を警察に保証してもらい、
②その型式に従って製造された個別の遊技機レベルで、パチンコホールが「認定」という手続きで「検定時と性能が同一である」ことを確認して適法性を警察に保証してもらう
というメーカーとホールで二重に試験を受ける構造になっています。

これまでの記事でも再三述べたようにパチンコメーカーは「検定」の段階と「出荷」の段階で釘の角度を無断で変更することで不正に役物比率を操作していました。上記のようにパチンコ台の試験は「検定→認定」という順序で行われるため、この結果日本中のパチンコ台は不正機だらけになってしまいました。

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上記の文書は日工組が警察に向けて2015年の11月に提出した文書ですが、この文書では「〜貴庁からのご指摘内容である「遊技くぎ」の変更については、日工組組合員にも責任の一端があることは否定できません」と事実上パチンコメーカーが検定に際して不正を行っていたことを自白しています。

つまり”出荷時点”ですでに検定時と性能が異なるのですから、当然にして現在全国に設置されているパチンコ台は現実に「検定時と性能が異なる」ものになっています。ただそれを言い切ってしまうと明確な法令違反(遊技機認定等規則第11条)なので警察としてもパチンコメーカーに対して行政処分を実行せざるを得なくなります。

これはいわゆる「検定取り消し」(詳細はこちら参照)と呼ばれる処分なのですが、現実にこの処分を行ってしまうとパチンコメーカーが市場から締め出されなおかつリコール責任を被ることになり、倒産するパチンコメーカーもでてくることになります。また副次的に全国ほぼ全てのパチンコホールに対しても違法機の設置を理由とした営業停止処分を課さなければならないことになり、業界が大混乱に陥ります。

そうなると警察も警察で責任を問われて面倒なので、「検定時と性能が異なる”可能性がある”遊技機」という表現にとどめてパチンコメーカーの責任を追求せずに、パチンコ業界が”自主的に”回収を進めることで警察とパチンコ業界が手を握ることになりました。こうすることで
 ①警察は不正なパチンコ台の撤去という目標を果たせて顔が立ち
 ②パチンコメーカーは経営上大きな損害を受けずにすみ
 ③パチンコホールは営業を続けられる
ということで”パチンコメーカーの責任を追求しない”ことで関係者の利害が一致したというわけです。

つまりパチンコメーカーはVWや三菱自動車の排ガス不正と本質的に同じような大不正を働いたにもかかわらず、なんのお咎めもなく、監督官庁である警察庁とパチンコホールとの利害調整により不思議なことに「無罪放免」されてしまうことになりつつあります。


2.無罪放免のパチンコメーカーの横暴と警察の責任放棄

これはまさしく監督官庁と業界の「癒着」と呼ぶにふさわしい構造だと思うのですが、こうしてめでたくパチンコメーカーが無罪放免されつつあるのに対して、ホールはそういうわけにはいきません。まず

パチンコホールは、パチンコメーカーが一方的に発表する不正改造機を、期限内に全て撤去しなければ営業停止処分に課されてしまう


という非常に厳しい状況に追い込まれます。普通に考えれば不正に検定を突破したのはパチンコメーカーなのですから、パチンコメーカーの責任・負担で不正改造機を回収する、というのが筋のはずです。しかしながらパチンコメーカー側から見れば”無罪放免”で監督官庁と手を握っているので、そんなお金がかかることをやるはずがありません。筋よりも金です。

そんなわけでパチンコメーカーは新規製品開発・販売に専念し、不正機(=”検定機と性能が異なる可能性がある遊技機”)の回収に伴う費用負担の9割超をパチンコホール側に押し付けることにしました。もう少し詳しくいうと、パチンコ台は概ね一台40万円程度なのですがその回収に当たって1万円〜5万円を負担して、残りの大半35〜39万円相当をホールの負担に押し付けることにしました。

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上の表は現在メーカー側からパチンコホールに配布されているものですが、例えば業界の雄たるサミーは回収に伴う手当を下取り価格で一機あたり2万円〜4万円の範囲で納めています。(パチンコ台の定価は40万円程度)なお近年のセガサミー社の遊技機部門の利益は以下の通りです。

 2015年:257.9億円
 2014年:452.9億円
 2013年:235.3億円
 2012年:710.4億円
 2011年:642.8億円

すごい利益ですね、だからなんだという話ですがね。。。もちろんパチンコホール側も決して責任がないわけではなく、”出荷段階”から”営業段階”においてさらに釘を操作する不正改造が常態化しており、5月には京都でそうした事例で検挙されたホールがありました。

しかしながら今回の不正改造事案においては主犯であるパチンコメーカーが一切責任を問われず、むしろ回収に伴う特需で儲かる可能性すらあり、一方の従犯であるホールのみが入れ替え負担で苦しむというのはおかしな話でしょう。別にホールの肩を持つわけではありませんが、メーカーもホールも同じように責任を分担するのが公正というものなのではないかと思います。

パチンコメーカーが自ら罪を自白しているにもかかわらず、それを警察が見逃して、なおかつパチンコメーカーが一方的にパチンコホールに負担を押し付けるような構図を見て見ぬ振りをするのは、「パチンコメーカーと警察の癒着」そのものと言わざるをえません。



3.国会と司法の役割への期待

このように今回のパチンコ不正改造事件は、最終的に「警察とパチンコメーカーが癒着して、パチンコホールに責任を押し付ける」という構図で収集が図られつつあります。このままではパチンコホールはユーザーに責任を追及され、パチンコメーカーから経済的負担を押し付けられ、過重な負担に耐えきれずに店を閉める事業者が続出し大不況に陥ることになるでしょう。規模の小さなホールは潰してもよくて、規模が大きなメーカーを潰してはいけないというのはおかしな話でしょう。

私は今回の一連の事案に対する対処に関して基本的には警察を評価してきたつもりですが、この幕引はメーカー贔屓、ホールいじめ、なおかつ警察としても保身に走りすぎで、問題の解決に何ら繋がらないと感じています。当たり前のことですが、本来ならば

 ①出荷段階で不正を働いたメーカーはホールに対して責任を果たし
 ②営業段階で不正を働いたホールはユーザーに対して責任を果たし
 ③警察は信賞必罰を貫き、公正なルールの運用と見直しを図る

という責任の取り方をすべきです。

実際私が見る限り2015年の11月前半段階までは警察はこのような方向で事態に対処するように努めているように見えましたが、何らかの理由で11月後半に方針を転換したように思えます。

こうした事情も踏まえて、やはりこの問題の議論は引き続き国会で続けていく必要があると感じますし、また、行政が無罪放免を決め込みつづけるならば今後はパチンコメーカーも含めて司法の場において何らか責任を追及する手続きを取っていく必要があるのだろうと思います。

今年に入り一度パチンコ業界がサボタージュしてこの問題を放置しようとした時に、改めて問題を表面化したのは国会における高井たかし先生、河野太郎大臣の政治決断でした。

日本は法治国家、民主主義国家です。業界関係者もいつまでも裏でごにょごにょ相談して、ことを隠蔽しようとしても、それで逃れきれないことをそろそろ悟っていただければと存じます。

ではでは今回はこの辺で。